雨の日の拾い物

「うだーーーーーー疲れたーーーーーっっっっ。」

  やっとこさ和隆のスケッチが終わり、俺は解放された。思わずその場でごろりと寝転がる。白い布の少しひんやりとして、さらさらとした感じが気持ちいい。もぞもぞとその白い布にくるまった。

「あー・・・なんかこのまま寝そー・・・。」

  あまりの気持ちよさにだんだんと瞼が下りてくる。

  すぅっと闇に吸い込まれるように、俺の視界はブラックアウトした。ぼんやりした思考ながら、なんとなく視線を感じる気がした。

「おーい?コーヒー入ったぞ?って、寝てるじゃん。」

  馴染みのいい香りがする。カフェインの匂いに意識が急速に晴れていく。

「襲うぞ?」

  視界が開けると同時に和隆のどアップとこの台詞。なんとも・・・

「お前そのセリフ似合いすぎ・・・。」

  思わずぽろりと本音が口に出てしまう。

「・・・俺は強姦魔か?」

  いや、疑問系で聞かれても俺的にはかなりまじで言ったわけで・・・っていうか、男相手にその台詞はないだろぅ・・・

「強姦魔とまでは言ってないって。ただ似合うって言っただけだろ?」

 っていうか冗談だし。似合わないこともないような気もしないこともないけれど・・・

 コーヒーを受けとり口に運ぶとカフェインが効いてくる気がする。そういえば俺、服着てなかったっけ・・・

「・・・・・・っっ!」

 不思議そうな顔を向ける和隆をよそに、俺はようやく動き出した脳みそで、自分が全裸のままだという情報を認識した。コーヒーカップを持っているために動けない俺の百面相を見て、和隆は俺の思いに気づいたらしい。

「あーはいはい。そのまま動くなよ?」

 白い布の両端を前で交差させ、首に回すように後ろで結んでくれた。

「これで少々動いてもかまわないし、両手も使えるだろ?」

 少し得意そうな和隆の表情を見てると、元々この状況に追い込まれた原因は誰だ!と突っ込みたくなる。

「あーおまえ、そうしてるとほんとに女に見えるな。」

 ・・・はい?

「ギリシャ神話とか天使とか・・・そんな感じ。」

 うーんっと考え込みながらあごをさする。視線はこちらに向いたまま・・・。

「そういう事は女に言えよ。天使みたいだとかいったら喜ぶだろ?」

 その場の空気が凍った。

 だって、彼女いるんだろ?俺に構ってないで彼女でも描けよ・・・綺麗だとか天使みたいだとか言いながら・・・。

「残念ながら独り身なのよ〜。」

 はい?

「冗談だろ?」

「いや、驚いてくれるのはうれしんだけど、俺独りよ?確かにこんなにカッコイイ俺が独りだなんて信じがたいかもしれないが・・・事実だ。」

 妙に威張った風に宣言する。っていうか、自分でカッコイイとか言うなよ・・・。

「じゃああの香りは?カボティーヌはどう説明するんだよ?」

 そうだよ、あの香り。和隆はカボティーヌという名前さえ知らなかった。和隆の持ち物の香りではない。だいたい女物だし。

「誰か女が来てたんだろ?ご丁寧にペアカップもあったしな。」

 俺何言ってんだろ・・・これじゃあ浮気に気付いたうるさい女と一緒じゃないか・・・。

「あー・・・昨日の事か・・・。」

 思い当たる節に気付いたようだ。気まずそうに頭をぽりぽりとかき視線を宙に泳がせている。

「あれはな・・・・・・・・・姉貴だ。」

 はい???

 いや、それってそんなに気まずくなるような人ですか?

「だぁぁぁぁぁっっ恥ずかしいっっこの歳にもなって姉貴が遊びにくるなんてなぁ・・・いいかげん姉離れしろは自分でも思うんだが・・・いや、姉貴が来てくれるからうまい飯が食えて綺麗な部屋で絵がかけて清潔な服が着れるんだが・・・。」

 オイオイオイ・・・?

「と、言うわけで、あれは姉貴だ。俺は独り身。O.K.?」

「あ・・・あぁ・・・。」

 あまりの和隆の狼狽ぶりに毒気を抜かれた思いだ。しかし、和隆がシスコンとは・・・ぷぷっ。

「笑うなよ。」

 少しムッと、少し照れた和隆。

「笑ってねぇよ。」

 笑ってるケド。いや、シスコン・・・・・・・・・クククッ。

「なぁ・・・。」

「あ?」

 まだ腹の痙攣が治まらない俺に半ば飽きれたように話し掛ける。

「もしかして妬いた?」

 はい?

 ダレガ?ダレニ?ドウシテ?

「おまえ、今日すっぽかそうとしただろ?」

 あぁ。そういえば。強制的に拉致られてここにきたけど。

「それに、キスマークいっぱいつけてさ。あてつけ?」

 んーっと・・・えーっと・・・(悩)

 

「ぷっ。」

 え、ぷ?今のは俺じゃないぞ。ということは和隆か?あぁ?なんで笑ってんだよ・・・。

「冗談。そんな困った顔するなよ。冗談だってば。」

 バシバシと叩かれる。いや、生肌は痛いっす。

 なんだかなぁ・・・な気分。なんだろ、よくわかんないけど、もやもやした感じ。

「さて、飯にでもするか。」

 よっこらしょとおっさんくさい掛け声をかけながら立ち、台所に向かう。

「え?今日は終わり?」

 いや、終わりだったら服着てもよかったんじゃ・・・。

「俺は腹が減った。だからまず飯―。」

 はははっ・・・やはりどこまでもゴーイングマイウェイな男、藤村和隆。

「まずってことは飯食ってから続きやるの?」

 和隆は少し考えてから言った。

「そうだな、お前がいいなら飯食ってから続きやって・・・泊まっていっても良いぞ?」

 んー・・・どうしよう?家にはまぁ帰らなくても良いし、というより、家に帰るのもヤだし、このまま和隆といたほうが楽しいのは明白。

「んじゃ、泊まるわ。」

 手際よく野菜を切りながら生返事をする和隆。なんか手付きがすごく慣れてるんですけど・・・。

「あ、でもお前昨日も外泊だろ?」

 う・・・痛いところを突いてくる・・・。

 どうやら、それが表情に出ていたらしく、和隆は誰にも心配かけないんだったら構わないが。と付け足した。

 


 俺はあまり家に居つかない。別に幽霊が出るとか、継母にいじめられているとかそういうわけではない。ただ家が嫌いなのだ。

 家に帰ったところで誰もいない。いや、正しくは住み込みの家政婦の田村さんが居るには居る。ただ、家族は姉を除いて誰も居ない。そして姉は俺を見るといつも怒りに任せて噛み付くようにまくし立てる。「あんたまた別れたのっ!?何人目だと思ってるのよっ!!」

 家族関係なんて最悪。姉との関係は劣悪。父親との関係は・・・疎遠というより何もない。顔を合わせる事も、話しをする事も何もない。ただ、銀行の口座に小遣いという名目の多額の振込みがあるだけ。母は・・・実母は死んだ。今は新しい母がいるにはいる。でも俺は、あの女を母と呼ぶ気にはなれない・・・・・・。

 

「おーい?コーヒーこぼすぞ?もっしもーし?」

 ぁあ?なんか聞こえる気が・・・。

「おい、マジこぼす気か?白い布洗うの大変なんだぞ?」

 バシッ

「いってぇ・・・。」

 何も後頭部殴る事はないだろ・・・あぁ、俺トリップしちゃってたのか(汗)

「はい、コーヒーしっかり持って。大丈夫か?」

 えーっと、和隆の家で、そう、夕飯を待ってたんだよ。

「んー・・・ダイジョウブ。ちょっと考え事してただけ。」

 あーヤな事考えちまったぜぃ・・・ん?

「いい匂い・・・にんにくに醤油?」

 ダイニングテーブルから湯気が上がっている。匂いの元はそこだ。

「おぅよ。飯だ飯。ぼーっとしてると食っちまうぞ?」

 どうやら普通そうな俺の様子をみて、にかっと笑う。いや、にこっと笑ったら怖いから(笑)

「うわぁっすげぇっっうまそう〜っっvv」

 テーブルに鎮座していたのはなんともうまそうな肉の塊・・・もといぶっといステーキののったバターライス♪

「ふふんっスタミナつけてがんばらないとな。夜は長いんだぜ?」

 自慢げな笑いとともにその台詞・・・

「おやじ。」

 ぼそり

「いや、いやなら食わなくていいんだぞ?」

 目の前のステーキが横へスライドしていく・・・(泣)

「いやーっっ俺が悪うございました〜きゃー許してー。」

 アホですな。はい。

 とりあえず、ステーキを死守。いや、これで食えなかったら泣くしかないし。

「「いただきます。」」

 うわっマジうまvvあいも変わらず和隆の料理はうまい。育ち盛りにこのステーキはたまらん♪この料理に釣られてここに来ていると言う節がないでもない(笑)

「うまいかー?うまいだろう?しっかり食えよ?」

 目の前でりんごを切る和隆。・・・え?

「もう食ったのか?早いなぁ・・・。」

 ふふんっと笑いながら和隆が言う。

「お前が遅いんだって。お子ちゃまだなぁ。」

 その手元には八つに切り分けられたりんご・・・耳ついてるんですケド?

「ほい、お子ちゃまにはウサギりんご♪」

 あまりの器用さに怒りを飛び越えてもはや感心以外の何もない。しかしウサギりんごって・・・

 可愛いウサギちゃんに向かうべく、俺は残りのステーキとごはんを一気にかき込んだ。
(良い子の皆さんは真似しちゃダメだぞ?)

 

 

  

 

 

 

 

 

 

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