ある雨の日に

 

 

 

 あちゃーどしゃ降りじゃん…。

 駅を出ればそこは一面の水。どのくらい水かというと見渡す限り水。つまり靄がかかったように、まわりが白いフィルターを一枚通した感じに見えるわけ。

 こんな日に限って傘を持ってないんだな、これが。

 宏久も大学が始まって帰ってしまったし、頼る人間がいねぇ…しまったなぁ…。宏久がいたらすぐに走って迎えに来てくれるのに…否、まず朝に傘を持たされるだろう。頼り過ぎてんのかしら…トホホ。

 つーか冷え込んできたし、このままここに突っ立ってるわけにも行かないからタクシーでも乗るか…今月ピンチなのにぃ…。

 それもこれも宏久がいないせいだわ…そうよ、アイツがいないせいでこんな目にあってるんだわッッ。ペットのくせに主人の側を離れるなんて何考えてんのかしらッッ今度あったら文句言ってやんなきゃッッ。

 

「ちょっと、オネエサン?もしかして傘ないの?」

 突然背後から聞き覚えのない声が聞こえてきた。

 ん?お姉さん?って…私のことよね♪もちろん♪

 もちろんなんて言いながら期待せずに声のするほうを向くと、そこには背の高い男の子…んー男の子?宏久より5つぐらい上かしら?こっちをじっと見てるみたい。ってことはやっぱり私がお姉さん?

「そう、オネエサンだよ。傘なくて困ってるんだったらコレどうぞ。」

 そう言って彼は持っていた傘を私に差し出した。

 貸してくれるって事かしら?でも返しようもないし…それにこの子はどうするのかしら?傘を二本もっているようにも見えないし…。

「あぁ、俺は公園突っ切ってスグだから傘なくても大丈夫。それにその傘もう大分古いから返してくれなくていいよ。」

 あらあらまぁまぁ。私まだ一言もしゃべってないのに。

「どうして思ってることがわかるのかって?オネエサン全部顔に書いてあるよ。」

 言いながら彼は面白そうに笑った。うん。若いわ。って若いとか言っちゃってるあたり歳とった気がしてヤだわ。

「じゃ、この傘使ってね、オネエサン。」

 傘を押し付けた彼は、クスクスと笑いながら亜矢子の頭をぽんぽんっと撫でて、どしゃぶりの雨の中に消えて行った。

 

 

 

「でねでね、その子が渋めの男前だったのよぉ〜。20代後半ってとこかしら。あーあの時傘を返すのを口実に連絡先でも聞いておけばよかったわぁ〜。」

 まぁまぁいけしゃーしゃーとよくのたもうたもんだ。

 駅の外は土砂降りの雨。出先から呼び戻された僕。買い物に出ていたらしく、結構な量の荷物を抱えている亜矢子。

 荷物持ちに呼ばれたのかと思いきや、何の話を聞かされてるんだ僕は。

「で、そのときの反省も生かせずに今日も傘を持ってきてないと?」

 いくら春休みで僕がいるからってねぇ…学習能力持ちましょうよ、亜矢子サン。

「だって、宏久がいるじゃない?そのために宏久がいるんでしょ?」

 オイ。前半ちょっとドキッとしたけど、傘のためとかありえないし。

「残念でした。今日は僕も出かけててうっかりと傘を持ってないんだな。さ、荷物持ったげるから走って帰ろうね。」

 えーとか文句言わないの。大体なんでこうもこの人は子どもなんだろう。いや、そこが可愛いからいいんだけどさ。

「ぶぅ…帰ったらおいしいコーヒー淹れてくれるんでしょうね?」

「ハイハイ。あついおいしいコーヒーを淹れて差し上げますよ。ほら、とっとと走りましょうね、ご主人様。」

 ぶつぶつと文句を言いながら渋る亜矢子を宥めつつ、家路を急ぐ。

 雨は止むどころか勢いを増し、僕らを追い立てる。

「あぁ、そうだ。帰ったらどうせびしょ濡れだろうし、お風呂で温まろうね〜。この間買ってきた入浴剤入れよ〜。」

 荷物を抱え走りながら声をかけた。もちろん亜矢子に合わせて走ってるから、そんなに速くは走ってないのだけれど。

「この間の入浴剤ー???」

 思い当たるものがないらしく、訝しげな亜矢子。そういえば買ってきたこと言ってなかったかも。

「都竹さんのオススメだから、一緒に入ろうね♪」

 ぽんっと赤くなった亜矢子が可愛いなぁ。なんて思いながら、一瞬の間をおいて聞こえてくる叫び声を背中に受けて、一足先に脱兎の如く加速する。

 

 都竹さんのオススメの入浴剤。イイらしいよ?いろいろと(笑)

 

 

( おわり。)

 

 

 

 

 

 ♪あとがきとう名の戯言?言い訳?♪

 みなさまこんにちは。響万音でございます。
 ど短編ですが、お楽しみいただけましたでしょうか(汗)こんなど短編は初めてなので、短すぎるのではないだろうか、怒られやしないだろうか等々、実は結構気になってたり。
 今後は少しずつ、テーマをもってど短編を書いていこうかと思っています。

 今回のテーマは『雨の日』でした。

 以前雨の日に亜矢子さんに傘を差し出したのは誰だったんでしょうか?
 都竹さんオススメの入浴剤とは一体!?
 などなどの謎を残したまま今回のお話はここで終わりなのです。きっとそのうちこの謎が解かれる日が来るのかもしれないなぁと思っています。ま、所詮予定は未定ですが(苦笑)

 ではでは、また次の作品でお会いしましょう♪

   20060314 white day!!  響万音参る。

 

 

 

 

 

 

 

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